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『森内榮一郎商店』歴史と想いが交差する店
2018.10.17
「試行錯誤しながら、つくってきましたね。」
レジのカウンターにずらっと並んだお惣菜を見つめながら、照れくさそうな笑みを浮かべるのは森内榮一郎商店店主、森内秀幸さん。
暮らしに欠かせない日用品から、食料品、地酒までが揃うこの商店は、スコップ編集部がある秋田県鹿角市のまちなかオフィスから徒歩3分。
真っ赤な鳥居の前の交差点に位置している。
4年前にリニューアルをし、建物自体は新しいものの、お店自体の歴史は大変長い。
「少なくとも、明治時代には商売を始めていたようです。その頃は父の2代上がお店をやっていましたが、住所は今と変わらず、この鳥居の前の交差点でした。」
この鹿角の地で、歴史あるお店のバトンを受け渡されてきた森内さん。
小さな頃から働く父を見て育ってきたため、お店を継ぐという考えも、自然と芽生えていたそうだ。
「ただ、学生の頃はそれなりに野心も芽生えて、県外の大学に進学をしました。お店とは直接的な関係のない、教職もとっていたんですよ。しかし2つ違いの弟が大学に入学をするとき、彼が教師になりたいという明確な意思表示をしまして。それならば、私がお店を継ごう。教師の夢は弟に託そうと、私も意思を固め、父にそう告げました。思えば、父にそのように話をしたのは、初めてでしたね。」
お店を継ぐという選択は、ハズレくじを引くのとは全く違いますからね、と、森内さんは付け加えた。
大学を卒業した森内さんは、昭和60年の春、鹿角にUターンをしてきた。
経験を積むため、最初は父の下で修行を重ねた。
「売るための戦略を練るというよりは、父からの指示をしっかりとこなしていく方が大事でした。当時はまだ、個人の小さな商店でも品揃えさえしっかりしておけば、商品が売れる時代でしたから。毎日業務を行いながら、空いた時間で商品の勉強もして、だんだん仕入れも任されるようになりました。」
しかし、大手の量販店が郊外に進出するようになると、徐々にお店の経営は苦しくなる。時期を同じくして父が亡くなり、お店を森内さんが引き継ぐこととなった。
「いつ潰れてもおかしくないような状態でした。」
経営の戦略もしっかりと考えなければと頭を抱え、どう他店と差別化を図ろうかと悩む日々。しかし、お客さんに魅力を感じてもらえるのは、やはりお店や人だと感じた森内さんは、あることを考えついた。
それが、今は大きな売りとなっている、お惣菜の販売である。
「構想自体は、実はかなり前から持っていました。結婚したとき、妻が病院で栄養士をしていたので、きちんと栄養バランスの取れたお惣菜を販売できればと思っておりまして。しかし、妻が病死してしまい、その計画は頓挫してしまいました。」
仕入れを任される中で、市場に出入りし、食材を調達するノウハウは身につけていた。
あとは調理をする人が見つかればというとき、思い浮かんだのは、実の姉の姿だった。
「当時、姉は小坂町の歴史あるレストランで、9年近く働いていました。シェフとしての肩書も持ち、和食からイタリアンフレンチまで何でもつくることができる、私もびっくりするくらいのスキルとレシピを持っていました。」
道路の拡張工事によって、お店を後ろに引っ込めなければならず、新築の建物を建てている頃だった。
「惣菜をつくりたい。一緒にやってほしい」と姉に声をかけ、無事に承諾。
4年前、新しい店舗と新しいメニューとともに、森内榮一郎商店は新装オープンをした。
お店には、若い方から高齢の方まで、様々な方が足を運ぶ。
それぞれに美味しく食べやすいお惣菜を提供できればと、様々な工夫をしているという。
「例えば容器。家に戻ってレンジで温め直しても、変形しにくいものを使っています。分量も、なるべく一食で食べ切りやすいようにと計算しながらつくっているんですよ。」
そして、圧巻なのはそのメニュー数である。
主菜、副菜、汁物の、一汁三菜のメニューがバランス良く並ぶ。
「メニューについては、毎日変えています。鮮度や味が良いもの旬の食材を展開するように心がけていますね。夏だと、ズッキーニやパプリカなどを夏野菜のサラダとして売っていました。もちろん、鹿角でとれたものです。」
そうやって、姉と試行錯誤しながらつくり続けてきたレシピは、驚くほど膨大。
店頭に並んだメニュープレートを保管する、100枚入の箱は、ついに3箱目に突入した。
「お店の商圏は、決して広くはありません。だからこそ、いつも通ってくださる常連さんの顔を思い浮かべながら、楽しく作っていますよ。」
あと私も姉もお酒が大好きなので、居酒屋メニューのようなものは多いのかもしれませんねと笑いながら、森内さんの視線は日本酒が陳列された棚へとうつった。
ずらっと並んだ日本酒は、すべてお気に入りの銘柄。
「お客さんに紹介するとき、自分が好きなものだと、より実感を持って紹介できますからね。こんな飲み方をしたら美味しかったよと、そんなお話をしています。」
以前は県外の日本酒も並んでいたが、今は地酒がほとんど。
やはり秋田の水があっているんでしょう、と、森内さんは言う。
「自分が好きなものでお店をつくることができるというのは、個人商店の特権かもしれませんね。今日はこのお惣菜があまりそうだから、合わせるならこっちのお酒かなあと考えながら、楽しく1日を過ごしています。」
代々引き継いできたこの森内榮一郎商店だが、ひとり息子には、また別の道を歩いてほしいらしい。
「息子には自分の夢がちゃんとありますから、私はそれを応援したい。今は国家資格をとって、仙台でしっかり働いています。帰ってきたときには、お気に入りの『水曜どうでしょう』グッズを置いていってくれるので、店内に飾っていますよ。」
子育ての責任は果たしたから、あとは自分が楽しい商売を続けていけたらと、森内さんはこれからを語った。
「自分のお店から、大ヒットになるお惣菜が生まれればと思うこともあります。ただ、変にブレイクしてしまって、そのためだけに仕事をするようになってしまったら本末転倒だなと。あくまで、この鹿角で地域密着の商売を続けていきたいです。」
鹿角の皆さんに重宝されて、必要とされたのなら、こんなに嬉しいことはありませんね。森内さんは、無邪気な笑みを浮べながらも、まっすぐな眼差しでそう締めくくった。
様々な想いが集う、森内榮一郎商店。
森内榮一郎、というのは、父の名前なのだそうだ。
お店を引き継いだタイミングで、これまでの『森内商店』から、店名を変更した。
父への感謝と、名前を残したいという、森内さんの考えである。
「こんにちは」と、お客さんが入ってきた。
ちょっと失礼しますねと、立ち上がる。
「最近寒いねえ」と話しながら、姉弟並んでレジに経ち、慣れた手付きでお惣菜を袋に詰めていく。
赤い鳥居の前で、今日も変わらない日常が交差する。
【紹介店舗】
森内榮一郎商店
住所 秋田県鹿角市花輪字上花輪54
TEL 0186-23-3293
FAX 0186-23-3294
【この記事を書いたライター】
スコップ編集部
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